Solid State Planetary Science Group Seminar
2007 first half

Wed 9:30-12:00 @ISAS A-5F conference room

Kato, Fujimura, Tanaka, Iwata, Hayakawa, and Okada Laboratory,
Planetary Science Group,
Institute of Space and Astronautical Science,
Japan Aerospace Exploration Agency.

- Everyone is welcomed -
Mail: ogawa(@)planeta.sci.isas.jaxa.jp

For students: セミナーの心得 (PDF)

April   -   May   -   June   -   July   -   August   -   September

April

April 25 Kyoko Kawakami Tokyo Univ. M1 presentation
C型小惑星における光散乱特性の実験的研究
Experimental Study for Light Scattering by C-type asteroids (学部卒研発表)
小惑星探査機から得られた位相曲線やスペクトルなどの情報から、 小惑星表面のレゴリス粒径や、 レゴリスの堆積の仕方などといった表面の構造を見積もるためには、 実験室で得られた小惑星模擬表面の光散乱特性の調査が役に立つが、 これらはまだ十分に研究されていない。 そこで我々はC型小惑星から飛来したとされている炭素質コンドライト隕石の Allende 隕石、 Murchison 隕石の粉末を使用してC型小惑星模擬表面を作り、 試料表面に光を当てて、 その散乱光を近赤外多位相角同時分光装置で測定した。 隕石粉の粒子サイズ、堆積の仕方を変化させることによって、 散乱光の位相曲線、スペクトルがどのように変化するのかを調べることを目的とした。 またその結果をC型小惑星 Mathilde のものと比較した。
April 25 Taichi Kawamura Tokyo Univ. M1 presentation
Smart-1 衝突の地上観測 (学部卒研発表)
2006 年 9 月 2 日に ESA の月探査機である Smart-1 がその運用期間を終え、月面に衝突した。 先の Deep Impact 計画の例からもわかるように、 衝突後の放出物を分析することにより衝突地点の組成や結晶構造を知ることができる。 そこで我々はこの Smart-1 の衝突の地上観測を試みるための事前評価と、実際の観測を行った。 事前の評価としては今回の衝突条件にあわせた衝突実験を行い、放出物の分布を調べた。 そのうえで光度の評価と発行時間の評価を行い、観測計画の立案を試みた。 実際の観測はハワイで行い、その際に得られた画像を解析し、事前の評価との比較を行った。

May

May 2 Mizuho Matsumura Tokyo Univ. M1 presentation
磁気回転流不安定による乱流状態の円盤密度変化 (学部卒研発表)
原始惑星系円盤では、磁気回転流不安定により乱流が起きており、 その乱流粘性により円盤は角運動量を失って中心星へと降着していくと考えられている。 しかし、円盤内ではほとんど電離していない場所も存在し、 そこでは磁気回転流不安定がほとんど起きていない dead zone と呼ばれる場所が存在する。 本論文ではこの dead zone の存在も考慮に入れた円盤の面密度進化や降着率変化を、 数値計算により解析していく。 また、中心星への降着率の観測データと、 dead zone での粘性係数の落ち度合いによる降着率のふるまいを比較して、 dead zone での粘性係数の妥当な値を出していく。 これらの計算により、dead zone での粘性係数は dead zone 以外での粘性係数の 1/10 程が妥当だと分かった。
May 2 Hisataka Morito Tokyo Univ. M1 presentation
渦巻銀河 M51 のX線源 (学部卒研発表)
銀河に存在するX線源には白色矮星、中性子星、 ブラックホールと普通の恒星が連星系を成したX線連星系などがある。 そして近年のX線天文衛星の成果で、 近傍の銀河の腕に非常に明るいX線源が見つかり、 それを UltraLuminous X-ray sources (ULX) と呼んだ。 その正体は中間質量ブラックホールではないかと考えられているが、 一口にブラックホールといってもソフトステートやハードステートの状態遷移、 シュバルツシルトブラックホールやカーブラックホールといった種類の違いなど、 その姿は様々である。 本研究では M51 という渦巻銀河に在る9個のX線源について、 XMM-Newton 衛星と Chandra 衛星の観測時期の異なる4つのデータをスペクトル解析し、 それぞれがどのような種類の天体でどのような状態にあるかを議論した。
May 9 Takefumi Mitani ISAS/JAXA presentation
宇宙硬X線・γ 線高感度観測のための CdTe 半導体検出器の開発
硬X線・γ 線のエネルギー領域 (10 keV 〜 MeV 程度) で宇宙を観測することにより、 高エネルギー粒子が遠方の天体においてどのように加速され、 生成されているかに迫ることが可能となる。 しかしながら、この観測帯域では、 光子と物質との相互作用は光電吸収にくらべコンプトン散乱が支配的になってくるため、 入射光子の全エネルギーを検出するのが難しくなる。 また、検出器バックグラウンドが高いうえ、 天体からの信号も微弱であるので、感度の高い観測は困難であった。 高感度観測を実現するために我々は、 検出器中でおこるコンプトン散乱について、 その相互作用の位置とエネルギーを測定し、 コンプトン運動学から光子の入射方向と入射エネルギーを特定する、 「コンプトンカメラ」の概念に基づいた検出器の開発を進めている。
我々の開発している半導体コンプトンカメラは、 位置・エネルギーともに検出できる半導体検出器を多層にしたものであり、 積極的にコンプトン散乱をさせる散乱体と、 散乱された光子を効率よく光電吸収するための吸収体とからなる。 これを実現するために、我々は硬X線に対し高い検出効率をもち、 常温付近でも動作可能なテルル化カドミウム (CdTe) 半導体検出器の開発を進めてきた。 本講演では、この CdTe 検出器の特性と、 それを用いた位置検出可能な CdTe ピクセル検出器システムの開発の現状を報告する。 また、簡単にではあるが、 半導体コンプトンカメラの動作実証の結果についても紹介したい。
May 9 Kazunori Ogawa Titech. D3 new paper review
E. Urgiles, R. Toda, and J. Z. Wilcox, Surface elemental analysis in ambient atmosphere using electron-induced x-ray fluorescence, Rev. Sci. Instrum. 77 (2006) 013703.
将来の NASA 火星着陸探査ミッションに向けて 電子励起蛍光X線分析器の搭載が提案されている。 これは火星大気中で岩石試料に電子線を当て、 その場で蛍光X線による元素組成分析を行うものである。 この論文では、上記機器の主要開発項目となる電子線の発生装置について、 真空カプセルに電子銃を仕込んだ真空封じきりの小型電子源を開発し、 その性能評価、また火星大気模擬環境での蛍光X線分析を行っている。 キーとなるのは真空カプセルを外部大気から遮断して電子のみを透過する膜であるが、 1.5 mmφ × 500 nm の SiN 薄膜を電子透過窓として組み込むことにより 電子透過率 > 90% を実現し、 短時間での元素組成分析に成功している。
May 16 Yuichi Iijima ISAS/JAXA presentation
SELENE の概要と EMC (磁場) コントロールについて
SELENEの観測目標、搭載システム、観測機器、ミッションプロファイル、 地上系システム、運用について概要を話します。 SELENE 衛星の EMC (磁場管理) について話します。 大型衛星としては世界一の磁場環境の衛星にするための、 シナリオ作成から大業のいくつかを紹介します。 打ち上げ前の予想磁場 (とあるモードで LMAG センサー位置で) は 0.033, 0.055, 0.018 nT (xyz 成分) です (判る人はびっくり)。
May 30 Masanao Abe ISAS/JAXA new paper review
M. Kaasalainen, J. Durech, B. D. Warner, Y. N. Krugly, and N. M. Gaftonyuk, Acceleration of the rotation of asteroid 1862 Apollo by radiation torques, Nature 446 (2007) 420-422.
S. C. Lowry, A. Fitzsmmons, P. Pravec, D. Vokrouhlicky, H. Boehnhardt, P. A. Taylor, J-L. Margot, A. Galad, M. Irwin, and P. Kusnirak, Direct detection of the asteroidal YORP Effect, Science 316 (2007) 272-274.
P. A. Taylor, J-L. Margot, D. Vokrouhlicky, D. J. Scheeres, P. Pravec, S. C. Lowry, A. Fitzsmmons, M. C. Nolan, S. J. Ostro, L. A. M. Benner, D. J. Giorgini, and C. Magri, Spin rate of asteroid (54509) 2000 PH5 increasing due to the YORP Effect, Science 316 (2007) 274-277.
3論文とも小惑星の YORP 効果を観測で検出したという論文 (2編目と3編目は同一の小惑星の YORP に関する論文)。 YORP 効果は小惑星表面での光散乱と熱輻射の不均一性により生じる回転トルク効果のことで、 小惑星の自転周期や自転軸の方向を変える働きがあります。 これまで間接的な証拠は見つかっていましたが、 今回初めて直接的に自転周期の変動を捕らえています。 連合大会で北里さんが講演した Itokawa の YORP 効果検出の試みの結果と合わせて議論できればと思います。
May 30 Masatsuna Iwasaki Titech. M2 new paper review
G. Schubert, J. D. Anderson, B. J. Travis, and J. Palguta, Enceladus: Present internal structure and differentiation by early and long-term radiogenic heating, Icarus 188 (2007) 345-355.
著者は、カッシーニで観測した Enceladus の平均密度を用いて数値計算を行ない、 Enceladus の内部が十分に分化しており、150-170 km の岩石-鉄のコアをもち、 その周りに 90 km 程度の液体の水が層をなしているのではないかと推測している。 このことは、南極域からの窒素の plume も説明付けれる。 また、Enceladus は小さい衛星であるにも関わらず、 内部に熱源を持ち、潮汐加熱により、今も熱を保っているとしている。 Enceladus は一方で、地殻の変動もおこったと考えられており、resurfacing もしている。 このように様々なイベントを経験している Enceradus の内部構造は大変興味深い。

June

June 6 Akio Fujimura ISAS/JAXA presentation
惑星科学におけるテクトニクス -応力・歪みと異方性、そして、流動-
地球や惑星の性質は多くの場合、 等方的性質と異方的構造の組み合わせで記述している (地球の内部構造は、地殻・上部マントル・下部マントル・外核・内核と 大きな層構造 (異方的構造) で示され、 夫々については等方的と仮定されている)。 これらは単純化のためであるが、 一方、応力や歪みといった方向性を持つ 重要な性質の情報を失っていることに注意すべきである。 話題として取り上げるのは、以下の3点。
  • 地球の地震波速度異方性の話題から、 一般的な、異方性の話題を提供する。
  • 隕石中の異方性の話題から、 隕石母天体での応力・歪み状態についての話題を提供する。
  • 本来は異方的取り扱いをすべきであるべきであるが、 まだ等方的取り扱いに終始しているものとして、 氷衛星 (トリトン) で想定される氷表面の流動と それによるクレータの消滅についての話題を提供する。
June 6 Taku Yamamoto Tokyo Univ. M2 new paper review
M. J. Spicuzza, J. M. D. Day, L. A. Taylor, and J. W. Valley, Oxygen isotope constrains on the origin and differentiation of the Moon, Earth Planet. Sci. Lett. 253 (2007) 254-265.
本論文では、高精度の酸素同位体技術を用い、 月の Δ17O に制約を与えることでマグマオーシャン説を評価している。 その中で「月の海の high-Ti、low-Ti バサルトのマグマ溜まりは、 全球規模の酸素同位体の均質化を示す、酸素同位体平衡であるらしいこと」、 「Mg# が低いことと全岩の δ18O の幅が狭いことは、 δ18O への分別結晶化効果が最小であることを意味すること」 などが示されている。 最終的に著者は、月の海のバサルトの酸素同位体組成は、 ∼45 億年前のマグマオーシャンの発生を支持すると結論付けている。
June 13 Kouhei Kitazato Tokyo Univ. D3 presentation
小惑星イトカワの YORP 効果
太陽系小天体の自転運動に二次的な影響を与える効果として, 天体表面での非等方的な熱放射から発生する熱的トルク (YORP 効果) がある. このような熱的トルクは非常に弱い力ではあるが永年的に影響を与え続けるため, とくにサイズが小さく形状の歪な小惑星では無視することができない. これまでに地上観測によって確認されている高速回転天体 (自転周期 < 1h) や 衛星を持った連星系小惑星の存在からその効果の重要性が指摘されてきたが, YORP 効果を直接的に検出した観測的証拠は極めて少ない.
はやぶさ探査機によって詳細な観測がなされた近地球型小惑星イトカワは, そのサイズと形状から地上での長期的なモニター観測によって YORP 効果を検出できることが理論的に予測されている (Vokrouhlicky et al., 2004: Scheeres et al. 2007). 過去に 2001 年から 2004 年までの地上観測データをまとめた Kaasalainen et al. (2004) の結果では誤差の範囲内で自転周期の変化を検出できなかったが, 今回われわれは 2006 年 12 月に行った地上観測を含め, はやぶさミッションで得られた詳細な形状モデルを用いたライトカーブのモデル計算との比較から, イトカワの YORP 効果を検出することに成功した. その結果, 小惑星イトカワは現在 dw/dt = (-1.2 ± 0.2) × 10-17 (rad/s2) の割合で自転速度が減速しており, 過去に近地球型小惑星のライフタイムよりも短い時間のなかで 現在の姿を作り上げるイベントが起きたと考えられる.
June 13 Shota Ono Tokyo Univ. M2 new paper review
F. Barra, T. D. Swindle, R. L. Korotev, B. L. Jolliff, R. A. Zeigler, and E. Olson, 40Ar/39Ar dating of Apollo 12 regolith: Implications for the age of Copernicus and the source of nonmare materials, Geochim. Cosmochim. Acta 70 (2006) 6016-6031.
Twenty-one 2-4 mm rock samples from the Apollo 12 regolith were analyzed by the 40Ar/39Ar geochronological technique in order to further constrain the age and source of nonmare materials at the Apollo 12 site. Most samples show some degree of degassing at 700-800 Ma (estimated 782 ± 21 Ma caused by the Copernicus impact event), with minimum formation ages that range from 1.0 to 3.1 Ga. 40Ar/39Ar dating of two alkali anorthosite clasts yielded ages of 3.256 ± 0.022 Ga and 3.107 ± 0.058 Ga. We interpret these ages as the crystallization age of the rock and they represent the youngest age so far determined for a lunar anorthosite. The origin of these alkali anorthosite fragments is probably related to differentiation of shallow intrusives. Later impacts could have dispersed this material by lateral mixing or vertical mixing.
June 20 Yuichi Iijima ISAS/JAXA presentation
SELENE の自律化運用について
自律化運用とは、衛星に搭載された計算機が、 収集されたテレメトリ (衛星の情報) を元に (地上からのコマンド送信なしで) コマンドを発行する機能です。 SELENE の運用では、 リアクションホイール(姿勢制御装置)のアンローディングのため ある時間おきにスラスタの噴射を行う必要があります。 SELENE の観測機器は高圧電源を数多く搭載しています (日本最高レベル)。 高圧が印可された状態でスラスタを吹けば放電がおこる・・・ この状況を自律化機能で回避するにはどうやるか? 自律化機能の追加や搭載データベースの設定 (シーケンス) についてはなします。
June 27 Takehiko Arai ISAS/JAXA presentation
はやぶさ搭載蛍光X線分光計による小惑星 25143 イトカワの主要元素組成の分析とその隕石タイプの推定
はやぶさ搭載蛍光X線分光計 (XRS) の使命は、 隕石と小惑星との間に存在するミッシングリンクを繋ぐことである。 これまで、地球に降り注ぐ隕石は、実験室の分析で、 太陽系形成初期の情報を教えてくれた。 また、小惑星は、望遠鏡の観測で、その形成位置や空間分布を教えてくれた。 小惑星は隕石の母天体と考えられ、 両者の相補的な分析から太陽系形成初期の物質だけでなくその空間分布を得られると考えられた。 しかし、実験室における石質隕石の反射スペクトルと小惑星のそれとに対応がなく、 長年の謎とされてきた。 近年では、その差異が宇宙風化作用による現象だと推定された。 ただし、小惑星が石鉄隕石でも宇宙風化作用と同様のスペクトルを示すため、 この問題に決着をつけるには、フレッシュな小惑星の情報が必要である。 そこで、XRS は小惑星 25143 イトカワの宇宙風化作用を受けていないと考えられる 表層内部 100 ミクロン程度の主要元素組成を定量的に求め、 イトカワの隕石タイプを決定し、小惑星と隕石をリンクする。 本研究では、XRS のイトカワ観測スペクトルの分析を行い、 その主要元素である Mg, Si, Fe が、数ある隕石タイプのなかで、 最も普通コンドライトに類似するという結果を得た。 この結果と近赤外分光計 (NIRS) や地上観測の結果から、 イトカワは石鉄隕石では無く、普通コンドライトに分類できると結論付ける。

July

July 4 Taku Yamamoto Tokyo Univ. M2 presentation
分光学的手法を用いた ilmenite 検出方法の確立: 粒子サイズの影響を考慮した TiO2 存在量見積もり方法の改良
月面の TiO2 存在量を精度良く見積もることは、 月の海の形成過程やマグマオーシャン進化過程を解き明かすのに重要である。 近年の研究では Lucey et al (1998, 2000) により クレメンタインの月面反射スペクトルデータを用いて TiO2 分布図が作られたが、 ルナプロスペクターのγ線データから作られた TiO2 分布図とは、 月面の TiO2 存在量 0 wt% 〜 14 wt% に対して、 局所的に最大で約 8 wt% の差が生じている。 この差を生む要因のひとつとして粒子サイズの影響が考慮されていないことが挙げられ、 実際に Lucey et al (1998) でも粒子サイズの影響を考慮する必要があることが述べられている。 そのため、反射スペクトルを用いた方法をさらに改良する必要がある。 本研究では、Lucey et al (1998, 2000) の手法を用い、 粒子サイズで分けられたアポロサンプルの地上実験による反射スペクトルデータから、 サンプルの TiO2 存在量を見積もり、 その精度を標準偏差で評価した。 その結果、小さい粒子サイズの方が大きい粒子サイズよりも 標準偏差が 25% 〜 50% 程度小さくなることがわかった。
July 4 Kyoko Kawakami Tokyo Univ. M1 new paper review
S. Fornasiera, E. Dottoc, O. Hainautd, F. Marzarie, H. Boehnhardtf, F. De Luisec and M.A. Baruccib, Visible spectroscopic and photometric survey of Jupiter Trojans: Final results on dynamical families, Icarus, in press, Available online 29 April 2007.
木星のトロヤ群は今までに 2000 個以上発見されており、 起源や物理的性質、組成、他の太陽系小天体との関係は未だによくわかっていない。 本論文ではこれらの疑問に答えるため、トロヤ群のサーベイ観測を行った 47 天体に、 先行研究の結果を含めた 142 天体のスペクトルの結果をまとめた。 トロヤ群のそれぞれの族に関して、サイズとスペクトルの関係を調べたり、 L4 と L5 に位置する天体に組成の違いがあるかを調べた。 また軌道や物理要素とスペクトルの相関や、 他の太陽系小天体との関係を統計的に議論している。
July 11 Taichi Kawamura Tokyo Univ. M1 new paper review
M. Grande, B.J. Kellett, C. Howe, C.H. Perry, B. Swinyard, S. Dunkin, J. Huovelin, L. Alha, L.C. D'Uston, S. Maurice, O. Gasnault, S. Couturier-Doux, S. Barabash, K.H. Joy, I.A. Crawford, D. Lawrence, V. Fernandes, I. Casanova, M. Wieczorek, N. Thomas, U. Mall, B. Foing, D. Hughes, H. Alleyne, S. Russell, M. Grady, R. Lundin, D. Baker, C.D. Murray, J. Guest, and A. Christou, The D-CIXS X-ray spectrometer on the SMART-1 mission to the Moon-First results, Planetary and Space Science 55 (2007) 494-502.
ESA の SMART-1 の搭載されたX線観測機の D-CIXS がある。 D-CIXS は軽量化や CCD を応用した SCD など新しい技術が取り入れられた はじめてのX線観測装置であり、 X線による月の全球マッピングが目標であった。 本論文では D-CIXS の観測結果がファーストレポートとしてまとめられている。 その最も大きな成果は Ca をリモートセンシングではじめて検出したことにある。 この Ca の検出を含めた D-CIXS のX線観測についてレポートする。
July 11 Yoshiko Ogawa NIES presentation
火星の熱水循環と消磁の関係
火星の地殻内磁場は、 ダイナモの歴史や磁化あるいは消磁のメカニズムの観点からうまく説明がなされていないが、 熱水循環による消磁は、ある地域における磁化の欠損をうまく説明できる可能性がある。 熱水の移動は一般に2つの方法で消磁に寄与する。 1つは熱消磁であり、鉱物がキュリー点を超えると磁化を失う性質に依る。 もう1つは化学消磁であり、磁鉄鉱の酸化のように、 鉱物と水の反応によって引き起こされる。 熱水循環の熱と水の移動の過程を数値的に追うことにより、 この2つのプロセスを定量的に評価し、 火星で熱水循環が消磁に果たし得る役割を検討した結果を発表する。
月の鉱物探査に向けた SELENE/SP の校正
もう1つの話題として、 昨冬から参加させて頂いている/修行中である、 月探査衛星かぐや (セレーネ) / スペクトルプロファイラー (SP) のデータ校正について紹介する。 SP は可視・近赤外域 (0.5-2.6 µm) の連続分光観測を行い、 その高い波長分解能 (6-8 nm) と SN 比 (∼2300) から、 月の鉱物組成に関する情報を得ることが期待されている。 暗時補正と輝度校正の概略と地上校正の結果及び軌道上校正の計画について述べ、 できればさらに高次側のデータ解析計画についても触れる。
July 18 Yasuyuki Saito Tokyo Univ. D3 new paper review
J. L. Margot, S. J. Peale, R. F. Jurgens, M. A. Slade, and I. V. Holin, Large Longitude Libration of Mercury Reveals a Molten Core, Science 316 (2007) 710.
Observations of radar speckle patterns tied to the rotation of Mercury establish that the planet occupies a Cassini state with obliquity of 2.11 ± 0.1 arc minutes. The measurements show that the planet exhibits librations in longitude that are forced at the 88-day orbital period, as predicted by theory. The large amplitude of the oscillations, 35.8 ± 2 arc seconds, together with the Mariner 10 determination of the gravitational harmonic coefficient C22, indicates that the mantle of Mercury is decoupled from a core that is at least partially molten.
July 18 Mizuho Matsumura Tokyo Univ. M1 new paper review
K. Matsumoto, H. Hanada, S. Goossens, S. Tsuruta, N. Kawano, N. Namiki, T. Iwata, and D. Rowlands, A simulation study for anticipated accuracy of lunar gravity field model by SELENE tracking data, 36th COSPAR Scientific Assembly (2006) 2186
数値シミュレーションにより、SELENE での月の重力場の改訂の可能性を調べた。 SELENE では新たに、4way-doppler tracking と 二つの自由飛行衛星による相対 VLBI tracking がなされる。 これらのデータから、 (1) 月の裏側の重力のエラーが劇的に減る (2) 先験の情報からではなく、観測によって多くの重力係数が見積もられる (3) 現在の重力モデルの低次項でオーダーで1程の精度の改善がなされる という結果が得られた。

August

August 1 Masatsuna Iwasaki Titech M2 presentation
はやぶさX線 CCD のノイズ評価と次期小惑星探査での機上処理の最適化
はやぶさに搭載されたX線 CCD はクルージング中に劣化が確認されている。 現在までに CCD のイメージデータを用いてノイズ評価を行なってきたが、 ノイズに関して定性的に CCD の劣化の原因と劣化の程度を見積もった。 しかし、イメージデータの量が少ないため定量的な話をするところまで及べていない。 またこれ以上定量的な話をすることもできないだろう。 この発表では、次期小惑星探査に向けたX線 CCD の機上処理で、 CCD をどう扱うべきかについて報告する。
August 8 Shota Ono Tokyo Univ. M2 presentation
月面その場物質分析におけるコンタミ付着による岩石試料分析精度への影響
JAXA が検討を進める月面軟着陸機計画 (SELENE-2) において、 我々は岩石試料を採取・分析する実験装置 (SIP) の搭載を提案している。 SIP では、採取試料を研削し、 その研磨面をX線分析 (XRF/XRD) およびマクロ分光分析することで、 岩石の成因や母岩の特徴解明を目指す。 本研究では、研削時に要求される研磨面粗さと、 採取時に付着していたレゴリスや研削の際に発生するコンタミが分析精度へ及ぼす影響を、 XRF 分析の場合について調べ、その対策を考慮した。
August 8 Hisataka Morito Tokyo Univ. M1 new paper review
Gwendolyn D. Bart, Comparison of small lunar landslides and martian gullies, Icarus 187 (2007) 417-421.
月には活動的に動く水が無いにもかかわらず、 クレーターの壁には火星の峡谷に似た地形が見られる。 このような月の特徴は、火星にある、 液体の水によってできたと考えられている alcove-channel-apron の地形が 乾燥した地すべりによってできたことを示している。 つまり、乾燥した地すべりによるものと、水によるものを区別するために、 より詳しい分析が必要である。
August 22 Junichi Haruyama ISAS/JAXA presentation
SELENE 搭載地形カメラでみたいもの
SELENE 搭載地形カメラは、 分解能 10 m で月面をくまなく撮像する。 地形カメラは、前方視後方視二本の望遠鏡からなり、 立体視データの取得も可能である。 これまでの探査でも、 高解像度データは得られたりしているものの、 一部であったり、データの質が悪いなどの問題があった。 地形カメラにより、どのようなデータを取得し、 どのような月の科学に迫ろうとするのかを、紹介する。
August 29 Yuki Sarugaku Tokyo Univ. D3 presentation
Observational study of Comet 2P/Encke dust cloud
彗星のダスト雲 (テイル、トレイル等) の形状は、 彗星活動の履歴を反映しており、 彗星核の物理的性質を知る手がかりとなる。 また、放出されたダストは、 惑星間ダストの主な起源のひとつと考えられているが、 彗星全体からの供給量は明らかになっていない。 我々は、彗星のダスト放出を調べるため、 彗星のサーベイ観測を行ってきた。 このサーベイ観測で取得した Encke 彗星のダスト雲の形状を、 ダスト放出のシミュレーション画像と比較し、 放出されているダストの最大径、サイズ分布、放出率を見積もった。 また、可視・赤外の同時期観測から mm-cm サイズのダストのアルベドを見積もった。

September

September 5 Ryuhei Yamada Tokyo Univ. D3 new paper review
C. Frohlich and Y. Nakamura, Possible extra-Solar-System cause for certain lunar seismic events, Icarus 185 (2006) 21-28.
1969〜77 年のアポロ月震計による月震観測により HFT (High-Frequency-Teleseismic) events と呼ばれる高周波成分に卓越した成分を持った月震イベントが 28 個検知されている。 (月の浅部で発生する事から浅発月震とも呼ばれる。) これらの発生原因、メカニズムについては従来まで謎であったが、 本論文の著者らの解析により恒星月のある特定の期間内、 すなわち月の表側が天球上においてある特定の方向を向いたときに、 その多くが発生している事が分かった。 著者らはこの結果を元に HFT の発生が太陽系外からの物質に起因している可能性を議論している。 本発表ではこれらの結果と議論について紹介するとともに、 より HFT の発生原因を明確にするための更なる解析の手法についても述べる。
September 19 Makiko Ohtake ISAS/JAXA presentation
かぐや (SELENE) 搭載マルチバンドイメージャを用いた解析計画
9/14 に打ち上げられた月周回衛星かぐや (SELENE) に搭載されているマルチバンドイメージャ(MI)は、 可視から近赤外波長域の9つのバンドで月面の分光撮像を行う。 これまでの月探査に比べて高い空間分解能と S/N、 地形補正ができることなど MI の H/W としての利点と、 月隕石の分析結果に基づく知識など、 研究チームとしての日本の得意分野を生かして行う MI データの解析計画について紹介する。